「売上を追うほど資金が減る…」安易な値引きが招く3つの罠と、利益を守り抜く「価値の足し算」

経営者や店舗責任者の方々とお話ししていると、
「少し客足が落ちているから、割引キャンペーンをしようか」
「10%オフのクーポンを発行して売上を作りたい」
といったご相談をよくお聞きします。
売上を増やしたい、新しいお客様に来ていただきたいというお気持ちは当然のことです。
しかし、会社の「数字」や「お金の流れ」という観点から見ると、安易な値引きやクーポン発行には少し立ち止まっていただきたいのです。
今回は、値引きが持つ「メリット」と、資金繰りを苦しめかねない「デメリット」について、具体的な事例を交えて分かりやすく解説いたします。
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値引きはすべて「悪」? 知っておくべきメリットと活用法

まず大前提として、すべての値引きが悪いわけではありません。
「戦略的な値引き」には、事業を守るための重要なメリットが存在します。
それは「在庫処分による、一時的な現金化(キャッシュへの変換)」です。
皆さんの身近なところにも、この「良い値引き」は存在します。
たとえば、以下のようなケースです。
- 賞味期限が迫っている食品(スーパーの「2割引きシール」など)
夕方のスーパーのお惣菜コーナーでよく見かける「2割引き」や「半額」のシールがこれに当たります。
明日になれば、廃棄して売上が「ゼロ」になってしまうお弁当などを、割引してでも今日中に売り切ることで、少しでも手元に現金を回収しています。
- 季節外れのアパレル商品
夏が終わるのに大量の夏服(あるいは行楽用の水着)を抱えている場合などがこれにあたります。
来年まで、在庫として倉庫に保管するスペース代(倉庫家賃)や、管理コスト(棚卸の在庫確認の手間)をかけるより、クリアランスセールで原価割れしてでも売り切り、秋服を仕入れるための「資金」を作った方が健全です。
- 製品ライフサイクルの終了(家電量販店の「在庫処分セール」など)
週末のチラシなどでよく見る、家電小売り量販店の「旧モデル在庫処分セール」も典型例です。
型落ちになった旧モデルの家電を、新製品の発売前に、大きく値引きして在庫一掃することで、売り場面積を空け、新商品を仕入れるための「資金」を作っています
このように、「廃棄による損失を防ぎ、次の事業資金(現金)を回収するための値引き」は、経営上とても有効な手段です。
しかし、問題なのは「通常の商品を、単に売上や客数を増やす目的で安易に値引きしてしまうこと」です。
これを日常的に行ってしまうと、以下の3つの深刻なデメリット(悪影響)を引き起こし、正常なキャッシュフローを崩す発端となってしまいます。
ここからは、その3つのデメリットについて詳しく見ていきましょう。
【デメリット①】値引きは「利益」だけを100%削り取る

事業の数字を考える上で、ぜひ知っておいていただきたいのが「変動費」と「限界利益」という言葉です。
- 変動費
商品の仕入れ代や材料費など、売上に比例して必ず発生するコストのことです。 - 限界利益
売上から変動費を引いた「手残り」のことです。
(※おおむね「粗利」に近いイメージを持っていただくと分かりやすいです)
会社は、この「限界利益」の中から、毎月の家賃やスタッフのお給料といった固定費を支払い、最後に残ったものが営業利益となります。
ここが最も重要なポイントなのですが、値引きをした場合、安くなるのはお客様からいただく「売上」だけであり、仕入れ値である「変動費」は1円も安くなりません。
【具体例:街のケーキ屋さんの場合】
- 仮に、定価1,000円のケーキがあるとします。
- 材料費やパッケージ代(変動費)が600円です。
- この時の限界利益(お店の手残り)は、1,000円 - 600円 = 400円です。
ここで、「雨の日は全品200円引き!」というキャンペーンを実施したとします。
- 販売価格は800円に下がります。
- しかし、仕入先に払う材料費(変動費)は600円のままです。
- 結果、限界利益は 800円 - 600円 = 200円 になります。
つまり、値引きした「200円」は、材料の仕入先が負担してくれるわけではなく、お店の大切な利益(400円)から値引きした全額が、ダイレクトに差し引かれてしまう(200円)のです。
【デメリット②】イメージしたよりも「忙しいのに儲からない」状態になる

利益が減ってしまうと、それをカバーするために「もっとたくさん売らなければ」という状態になります。
これが、どれほど過酷なことか、アパレル店を例に具体的な数字で見てみましょう。
たとえば、10,000円のシャツ(仕入れ値4,000円)を販売しているとします。
【通常時の販売(値引きなし)】
- 販売価格:10,000円
- 仕入れ値:4,000円
- 限界利益:6,000円(1着売れるごとに6,000円が手元に残ります)
ここで、集客のために「20%オフ(2,000円引き)クーポン」を発行しました。
【クーポン適用時(20%オフ)】
- 販売価格:8,000円
- 仕入れ値:4,000円
- 限界利益:4,000円
お客様への販売価格は「20%」しか下げていないのに、お店の本当の儲けである限界利益は6,000円から4,000円へと、なんと約33%も減少(値引きの20%以上)してしまっています。
同じ利益を出すために、あと何着売ればいい?
通常時、このシャツを100着売れば、販売価格は「1,000,000円」、限界利益は「600,000円」です。
では、クーポンを使って同じ600,000円の限界利益を残すためには、何着売る必要があるでしょうか。
- 600,000円 ÷ 4,000円 = 150着
つまり、20%の値引きをした場合、客数を「1.5倍」に増やさなければ、元の利益水準を維持できないのです。
【具体例:現場の疲弊】
客数が1.5倍になるということは、接客する回数も1.5倍、レジ打ちも1.5倍、商品を包む手間も1.5倍になるということです。
スタッフは休む暇もなく働き、「今日はたくさんお客様が来て大忙しだったね!」と喜んでレジを閉めたのに…。
フタを開けてみたら、レジに残るお金は「いつものヒマな日と同じ(あるいはそれ以下)」という現象が起きます。
これが「忙しいのに儲からない」の正体です。
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【デメリット③】キャッシュフロー(資金繰り)が悪化する魔のループ

限界利益が減ることは、単に「利益が減る」だけでなく、以下のような流れで会社の資金繰りを直接的に、そしてジワリジワリと圧迫します。
- 固定費の支払いで現金が減っていく
ケーキを200円引きで売っても、家主さんは「今月は値引きしたから、家賃も20%引きにしてあげるよ」とは言ってくれません。
従業員のお給料も、銀行への返済額も変わりません。
入ってくるお金(限界利益)が減っているのに、出ていくお金が同じであれば、手元の現預金はどんどん減っていきます。
- 仕入れ代金が「先」に出ていく(資金ショートの危機)
先ほどのアパレル店の例で、利益を取り戻すために「150着売らなきゃ!」と目標を立てたとします。
しかし150着売るためには、先に150着分の商品を仕入先から仕入れなければなりません。
利益が減って手元の現預金が少なくなっている状態なのに、「追加の50着分の仕入れ代金」が真っ先にお財布から出ていくことになります。
売上が入金されるより前に仕入れの支払いが発生するため、ここで資金繰りが急激に苦しくなります。
- 定価で買う優良顧客が離れ、価格競争に巻き込まれる
一度、割引をしてしまうと、「このお店はクーポンの時しか買わない」「セールの時しか行かない」という価格重視のお客様が増えてしまいます。
昨日定価で買ってくれた常連様が、今日のセールを見たら、「損をした」とがっかりして離れてしまうかもしれません。
常に値引きをしないと売れない体質になってしまうと、現預金の流出が止まらなくなり、最悪の場合は黒字倒産に至る危険性もあります。
まとめ:値引きの誘惑を断ち切り、利益とキャッシュを守り抜く「価値の足し算」

在庫処分などの「戦略的な値引き」は有効ですが、単なる売上アップ狙いの値引きは限界利益を削り、現場を疲弊させ、キャッシュフローを悪化させます。
どうしても販促を行いたい場合は、価格を下げるのではなく「価値を足す(アドオン)」アプローチがおすすめです。
- △ 避けたい方法:10,000円のシャツを8,000円にする(現金2,000円の流出)
- 〇 おすすめの方法:10,000円のシャツに原価300円の「防水スプレー」をプレゼントする
後者ならお店の持ち出しは300円で済み、お客様の満足度も高まります。
経営で最も大切なのは、見栄えのする「売上」ではなく、「限界利益を確保し、現預金を残すこと」です。
割引を迷った際は「限界利益がいくら減り、その分いくつ多く売る必要があるか」を必ず計算してみてください。
安易な値引きの誘惑を断ち切り、「価値を足す」道を選ぶことが、事業と資金を守り抜く第一歩となります。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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投稿者プロフィール
古賀 聡
広島県広島市の税理士。現在は、個人事業主・中小事業者(法人)の税務・経営の相談を中心に活動中。ブログ投稿を2020年10月1日に立ち上げ、税務・会計だけでなく、Excelマクロなどのアプリを使って業務の効率化や経営のちょっとしたコツなど、「小さな便利」記事を作成・投稿中。








