どんぶり勘定から脱却!利益を最大化する「変動損益計算書」入門

私たちが普段目にする決算書(財務会計の貸借対照表や損益計算書)は、税務署や銀行などに、「1年間でこれだけ儲かり、これだけ資産と負債を持ってます」と報告するための厳格なルール(会計基準や会社法など)で作られています。
例えば、「売上は商品を引き渡した時点で計上する」「長期間使う設備は数年に分けて費用にする(減価償却)」といった全員共通のルールに従うことで、銀行が他の会社と業績を比較しやすくなったり、税務署が正しい税金を計算できるようになっています。
しかし、経営者やマネージャーが「今後の戦略を練る」ためには、実は通常の損益計算書は少し使い勝手が悪いんです。
そこで活躍するのが、経営管理のために作られる「変動損益計算書」です。
この2つの違いと、変動損益計算書の仕組みを、架空の「カフェ経営」を例に分かりやすく解説します。
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目次
コストを2つに分ける:「変動費」と「固定費」

変動損益計算書の最大の特徴は、すべての費用(コスト)を「売上に連動する費用」と「売上に関係なくかかる費用」の2種類にスパッと分けることです。
① 変動費(へんどうひ)
変動費とは、その名前の通り「売上の増減に合わせて、金額が変動する費用」のことです。
商品が売れれば売れるほどかかる費用で、逆にまったく売れなければ発生しない費用です。
- カフェでの具体例:
- 材料費: コーヒー豆、牛乳、砂糖、シロップなど、提供するドリンクやフードに直接使われるものです。
- 消耗品費: テイクアウト用の紙コップ、ストロー、紙ナプキン、おしぼりなど、お客様にお渡しして無くなるものも含まれます。
- イメージ:
例えば、コーヒーを1杯提供するのに100円の豆やカップ代がかかるとします。
1日に10杯売れれば1,000円、100杯大ヒットすれば10,000円の費用がかかります。
しかし、もし臨時休業して1杯も売れなかった日は、この費用は0円となります。
このように、売上に連動して費用が増減するのが、変動費の大きな特徴です。
② 固定費(こていひ)
固定費とは、「売上がゼロであっても、逆に大繁盛して売上が大きく伸びても、毎月必ず一定の金額がかかってしまう費用」のことです。
お店や会社を維持するために、どうしても避けては通れない基礎的な費用になります。
- カフェでの具体例:
- 地代家賃: 店舗の家賃や、月極駐車場代など。
- 人件費: 社員やアルバイトの基本給や固定シフトのお給料。出勤してもらっている以上、お客様が来なくてもお給料は発生します。
- その他: 店舗の火災保険料、インターネットや電話の基本料金、高額なエスプレッソマシンのリース代金など。
- イメージ:
悪天候などの影響で、1日中お客様が1人も来店されなかった日を想像してみてください。
売上は残念ながら0円ですが、店舗の大家さんに「今日は売上がなかったので家賃を減らしてください」とはお願いできませんよね。
どんなに売上が少なくても、毎月必ず一定額の支払いが発生するものが固定費となります。
儲けの「真の実力」を示す:「限界利益」と「限界利益率」

ここまでのステップで、すべてのかかる費用を「売上と連動する変動費」と「売上に関係なくかかる固定費」の2つにきっちりと分けることができました。
実は、この「費用を分ける」という作業こそが、変動損益計算書を作る上で最も重要なポイントになります。
なぜなら、費用をこの2種類に分けることではじめて、お店や会社が持っている「本当の儲ける力(利益を生み出す力)」を示す、2つの重要な数字を計算できるようになるからです。
その経営の羅針盤とも言える重要な数字は、限界利益と限界利益率です。
ついて、この限界利益と限界利益率について詳しく見ていきます。
③ 限界利益(げんかいりえき)
限界利益とは、売上高から「変動費」だけを引いた利益のことです。
計算式: 売上高 - 変動費 = 限界利益
商品を1つ売ったときに、手元に残る「利益」です。
この限界利益を集めて、家賃などの「固定費」を支払い、それでも余った金額が最終的な「営業利益(経常利益)」になります。
【補足:粗利(売上総利益)との違い】
よく似た言葉に決算書で使われる「粗利」がありますが、少し意味合いが異なります。
粗利は売上から「商品の原価(仕入代や製造にかかった原価費用)」だけを引いたものです。
一方、限界利益は売上から「すべての変動費(原価だけでなく、売上に連動する販売手数料や梱包費なども含む)」を引きます。
(※カフェのような飲食業や小売業では「粗利 ≒ 限界利益」となることも多いですが、製造業などでは工場の家賃などの固定費も「製造原価」に含まれるため、限界利益と粗利は異なる数字になります。)
④ 限界利益率(げんかいりえきりつ)
限界利益率とは、売上高に対する限界利益の割合のことです。
計算式: 限界利益 ÷ 売上高 = 限界利益率
限界利益率は、「売上が100円増えたら、限界利益はいくら増えるか」を示すパーセンテージです。
限界利益率が高いほど、少しの売上アップで一気に利益が増える「儲かりやすい体質」と言えます。
具体例で見る「変動損益計算書」の構造

それでは、カフェの1ヶ月の数字を使って、変動損益計算書を作ってみます。
【前提条件】
- コーヒー1杯の価格(売上):500円
- 1杯あたりのコーヒー豆など(変動費):100円
- 1ヶ月の家賃・人件費など(固定費):30万円
- 今月の販売数:1,000杯
コーヒー1杯あたりの分析
- 売上:500円
- 変動費:100円
- 限界利益:400円 (500円 - 100円)
- 限界利益率:80% (400円 ÷ 500円)
コーヒーを1杯売るごとに、固定費を支払うための資金が400円ずつ貯まっていきます。
月間の変動損益計算書(1,000杯販売時)
| 項目 | 金額 | 計算式・意味 |
|---|---|---|
| 売上高 | 500,000円 | 500円 × 1,000杯 |
| - 変動費 | 100,000円 | 100円 × 1,000杯 |
| = 限界利益 | 400,000円 | 限界利益率 80% |
| - 固定費 | 300,000円 | 毎月固定でかかる費用 |
| = 営業利益(経常利益) | 100,000円 | 最終的な手残り |
変動損益計算書では上記のように「売上 → 限界利益 → 利益」という流れで計算します。
通常の損益計算書では、「売上原価」と「販売費及び一般管理費」という分け方をし、経費の考え方などに違いがあります。
なぜ「変動損益計算書」が必要なのか?(活用方法)

この変動損益計算書のグラフを作ると、経営上の様々な「シミュレーション」が簡単にできるようになります。
活用例1:損益分岐点(赤字と黒字の境目)がすぐ分かる
「損益分岐点(そんえきぶんきてん)」とは、文字通り「損(赤字)」と「益(黒字)」の運命の分かれ道のことです。
つまり、利益がちょうど「ゼロ(トントン)」になる売上高や販売数量を指します。
通常の損益計算書を使って「いくら売れば赤字にならないか」を計算するのは変動費も固定費も混在しています。
変動損益計算書を使えば「1杯あたりの限界利益(限界利益率)で、お店の固定費をすべてカバーし終わるのは何杯目か?」を割り算するだけで、答えが出ます。
計算式: 固定費 ÷ 1杯の限界利益 = 損益分岐点(販売数量)
- カフェの例:
固定費 300,000円 ÷ 1杯の限界利益 400円 = 750杯
「月にコーヒーを750杯(売上37.5万円)売った時点」で、家賃や人件費などの固定費30万円をちょうど支払い終えることができます。
この「一ヶ月のコーヒー750杯」が損益分岐点です。
そして最大のポイントは、751杯目からは固定費の支払いが終わっているため、1杯売るごとに限界利益の400円がまるまるお店の「純粋な利益(黒字)」として貯まっていくということです。
このように、「まずは絶対に赤字にならない750杯を目指そう!そこからは1杯売るごとに400円の利益だ!」と、明確な目標を立てることができます。
活用例2:値下げキャンペーンの判断ができる
「客数を増やすために、コーヒーを100円値下げして400円にしよう」と考えたとします。
- 値下げ後の限界利益:
売上400円 - 変動費100円 = 300円 - 固定費30万円を回収するために必要な杯数:
300,000円 ÷ 300円 = 1,000杯
現状は1,000杯売れていて利益が10万円出ていますが、100円値下げすると、同じ1,000杯売っても利益はゼロ(トントン)になってしまいます。
これまでと同じ利益(10万円)をキープするためだけでも、1,334杯(現状の約1.3倍)を売らなければならないという厳しい現実が事前に計算できます。
つまり、「客数を増やすぞ!」と安易に値下げをしてしまうと、現場は1.3倍も忙しくなったのに、手元に残る利益は今までと同じという状況になってしまいます。
もし、コーヒーの販売数が1,334杯に届かなければ、「今まで以上にたくさんコーヒーを淹れて忙しく働いたのに、利益は減ってしまった(儲かっていない)」という非常に苦しい状態に陥る危険性があることが分かります。
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機械化すれば解決する?(固定費と限界利益のバランス)

ここで、「たくさん売るための値下げはしない。値段は500円のままで、ボタン一つで抽出できる全自動コーヒーマシンを導入して機械化すれば、時間も労力もかからず利益が出せるのでは?」と考えるかもしれません。
確かに、機械化すれば、提供の手間は大幅に省けるでしょう。
ここでも変動損益計算書の考え方が役立ちます。
設備投資には「固定費が増えるリスク」と「限界利益が上がるメリット」の両面があり、そのバランスを見極める必要があるからです。
活用例1:リスクの側面 固定費の増加
高性能な機械を導入すると、毎月のリース代などの固定費が新たに増えることになります。
例えば、機械のリース代が毎月5万円かかるとしましょう。
- 固定費は30万円から35万円にアップします。
- 通常のコーヒー(売上500円、限界利益400円)で利益10万円を出す
(固定費35万円+目標利益10万円)÷ 限界利益400円 = 1,125杯
つまり、今まで通りの利益10万円を確保するには、1,125杯のコーヒーを売らなければなりません。
機械を導入しただけで変動費が変わらなければ、現状の1,000杯から「さらに125杯多く売らなければ、利益が減ってしまう」というハードルが待ち受けています。
「では、これまで貯蓄したお金(自己資金)で機械を一括購入した場合は?」と思うかもしれません。
しかし、ここが会計の重要なポイントです。
高額な機械を一括購入した場合、財務会計のルールである「減価償却(げんかしょうきゃく)」が適用され、買った時に全額を費用にするのではなく、数年間(例えば5年間など)に分けて少しずつ費用として計上します。
つまり、手元の現金は最初に一気に減りますが、計算上は「減価償却費」という固定費が毎月増えることになります。
リースであっても自己資金の購入であっても、「固定費が増える=より多く売らなければ利益が出ない」という構図は変わりません。
活用例2:メリットの側面 限界利益・限界利益率の向上
一方で、機械化は固定費を増やすだけでなく、限界利益を押し上げる(儲かりやすい体質にする)という大きなメリットを生むこともあります。
例えば、高性能なマシンを導入したことでコーヒー豆の抽出効率が上がり無駄が減るなどして、1杯あたりの変動費が100円から50円に下がったとします。
| 項目 | 導入前 | 導入後(機械化) |
| 売上(1杯) | 500円 | 500円 |
| 変動費(1杯) | 100円 | 50円 |
| 限界利益 | 400円 | 450にアップ! |
| 限界利益率 | 80% | 90%にアップ! |
この「限界利益が上がった状態」で、目標利益10万円を出すための杯数をもう一度計算してみましょう。
(固定費35万円+目標利益10万円)÷ 限界利益450円 = 1,000杯
なんと、固定費が上がっているのに、必要な販売数は今までと全く同じ1,000杯で済むという結果になりました!
つまり、「販売数は今まで通りでOKなのに、機械のおかげでスタッフの労力は大幅に減り、さらに材料の無駄も減っている(利益は今まで通り10万円出ている)」という、非常に理想的な状態を作ることができました。
このように、機械化などの投資を行う際は、「固定費がいくら増えるか」だけでなく、「投資によって変動費が下がり、限界利益率がどれくらい改善するか」をセットでシミュレーションすることが非常に重要です。
まとめ
- 変動費: 売上に連動するコスト(豆代など)
- 固定費: 売上に関係なくかかるコスト(家賃など)
- 限界利益: 売上から変動費を引いた「純粋な儲けの原動力」
- 変動損益計算書: これらを使って、「どれくらい売れば利益が出るか」「設備投資をすべきか」といった未来の経営戦略を立てるための羅針盤
経営の意思決定において、変動損益計算書を使って、限界利益を把握することは不可欠です。
「いくら売上を上げれば、いくら利益が残るのか」が明確になるためです。
その根底にあるのは、簿記の知識により、仕訳を常に計上・処理するコトが前提ですが。
こういう部分でも、簿記の知識が役に立ってきます。
最後まで、ご覧いただき、ありがとうございました。
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投稿者プロフィール
古賀 聡
広島県広島市の税理士。現在は、個人事業主・中小事業者(法人)の税務・経営の相談を中心に活動中。ブログ投稿を2020年10月1日に立ち上げ、税務・会計だけでなく、ExcelマクロやRPAを使って業務の効率化やWebサイトの構築など、「小さな便利」記事を毎週月曜日に作成・投稿中。









